11小さい頃は診察ができないほど泣き叫んでいた0君が、数年ぶりに顔を見せました。中学生になり背丈も伸び、胸板も厚くなり見違えるようになっています。ときどき小児科は何歳までを診る科なのかと質問されることがあります。人が成長、発達の過程にある間は小児科の守備範囲ということになります。勿論この成長と発達には、体の大きさだけではなく運動能力、言語、情緒、社会性なども含まれます。

私のクリニックでは過去に受診したすべての患者さんのカルテを保存しています。カルテを見るとどんな赤ちゃんだったとか、保育園、幼稚園時代は風邪を引きやすい子供であったとか、いつどんな病気にかかったとか、その子供の成長過程がよくわかります。しかし誕生から乳児期、幼児期そして小学校低学年と時々風邪を引くくらいで順調に育ってきた子供も、思春期にさしかかると、程度の差こそあれ、心の問題がでてきます。

思春期はすべての子供にとって越えなければならない関門です。思春期とは子供から大人に移り変わる時期であり、性的な成熟と社会的な適応とがなされる時期でもあります。この時期は心身の発達がアンバランスになりやすく、心に複雑な葛藤(かっとう)を抱え、情緒や行動もそれまでにない不安定な様相を示します。

小児科医は多くの親と接しますが、大人は自分が子供だった時期のことをよく覚えていないようです。どのように思春期を過ごしたのか、色々な悩みをどのように乗り越えてきたのかを、悩んでいる子供に説得力をもって助言をすることはなかなか難しいと思います。また、子供を取り巻く環境も、親たちが子供のころとは大きく変化していますので、親が行動の指針と考えることも受け入れられないこともあるでしょう。

子供が思春期に問題行動を起こす原因としては、大きく分けて子供自身の問題(性格、遺伝的素因、感情、心理状態)と、子供を取り巻く環境の因子(家庭、学校、友人関係、社会、文化)があります。いくつもの因子が絡み合っていることが多く、単一な原因が簡単に見出されることはほとんどありません。親にとって子供はいつまでたっても自分の分身のようなもので、なかなか子供を独立した人格を持つ一人の人間とは見なさないようです。小学校の高学年、さらには中学生になっても自立できていない子供もいます。遅くとも思春期になる前には、子の親離れ、親の子離れが必要です。かわいい子には旅をさせろということわざは、真理を突いていると思います。

まれには思春期の心の問題だと思われていた症状が、実は貧血、甲状腺機能亢進症、起立性調節障害などの病気のこともあります。怒りっぽくいらいらして、根気がなく疲れやすいという女の子が実はバセドー病で、治療後には落ち着いた素敵な子に変身したということもありました。小児科医は、子供の心の発達についてもよく理解していますので。心配な時にはまず相談をしてみるのがよいと思います。