1-1 弘前市の一歳半健診に出かけ子供を診察したところ、「先生、私わかりますか?」と言うお母さんがいました。名字を見ても思い当たらず、「えー!ごめんなさい。どこで会ったのか思い出せないんだけど」と正直に答えました。すると「小学生の時、大学病院に入院していて先生に診てもらった○○です」と言われ、顔をよく見ると「あー!○○ちゃん?」とようやくわかったことがありました。今でも大学の”小児科”から薬をもらっているとのことでした。母親となって元気な赤ちゃんを授かったことを大変うれしく思いました。

小児科医は二十代の新米医者の時代から三十代、四十代、五十代と年齢が進んでも、毎日診ている患者さんは、赤ちゃんや保育園児、幼稚園児、小学生、中学生であり、対象にする年齢は同じです。原則的に高校生以上の患者さんを診ることはありません。しかし、小児科医になって年数がたつに従い、若いころには考えてもみなかったことが起こってきました。それがキャリーオーバーという現象です。

耳慣れない言葉だと思います。これは、昔では助からなかった病気が医学の進歩で助かるようになり、その病気および治療から発生した問題が思春期や成人の年代にまで持ち越すことを言います。病気自体が年齢的に小児科医の範囲を超えて、持ち越されるという意味でも使われます。

例えば、生まれつき甲状腺ホルモンの分泌が少ない病気があります。生後なるべく早く診断し、治療をすることにより、全く正常な成長、発達が可能となります。しかし生涯薬を飲まなければなりません。このような病気の子を薬の量などを調節しながら、乳児期、幼児期、学童期と診ていきます。では高校生になったとたん「次回から内科で診てもらってください。紹介状を書きます」と言うべきでしょうか。またそれが、本人や家族にとってありがたいことでしょうか。生後まもなくから十五年間診てきた医師がかかわることが最も良い選択かと思います。このような例は先天性心疾患、先天性代謝異常、白血病をはじめとした小児のがん、乳幼児期発症の糖尿病など、小児難治性疾患に分類されるものにたくさんあります。

私の所にも昔、白血病の治療をしたとか、特殊な貧血の病気と診断され、今も私が診ているという方々が自分の子供を連れてきてくれます。その際、自分もせきが出るので薬がほしいとか、首のリンパ腺が腫れているが大丈夫か、などと相談されます。付き合いは三十年にもなりますので、私も大人を診ているという感じがしません。彼、彼女らも病気の治療経過などをすべて知っている私に安心感を持つように思います。そういう役目も小児科医にあったのかと、この年になって初めて知りました。自分ができる最大限のお手伝いをする。自分の専門外は、信頼できる先生を紹介する。それが私の仕事と思っています。

今回で連載を終了させていただきます。長い間ありがとうございました。