少子化と小児科医、産科医不足
小児科医は少ないのか?

弘前市医師会理事 河内 暁一

全国で小児科の後期研修を希望する初期研修医が、卒後臨床研修必須化以前の2003年の502人から今年は276人へとほぼ半減しているという。労働環境の厳しさを敬遠して初期研修中に内科など他の診療科に進路を変更するものが多いことがわかった。毎年新しく医師になる者の数が約8000人とすると、小児科を希望した276人は全体の3.5%である。日本の全医師数に占める小児科の割合は5.7%(平成16年12月31日現在)であるので、今後小児科がさらに減少することが懸念される。しかし別の見方もある。2002年から2004年の2年間に本邦では小児科医は196人増えたので、減ってはいないと言うものである。厚労省の官僚の発言である。全国の医師数は2004年の時点で27万371人。2002年から2004年にかけ7684人増加した。(新しく医師になった数から死亡した医師の数を引いた数字)医師の増加率から見ると、小児科の増加が196人(率にして2.55%)というのは、なり手が少なくなってきていることを示している。同じように産科を希望する医師も急激に減少している。(ちなみに現在小児科医は高齢化が進み、さらに約30%は女性医師である)
アメリカとの比較で人口当たりの医師数を1とした場合の、診療科別医師数は産婦人科0.8、小児科0.5、麻酔科0.4というデーターがある。日本ではもともと小児科医、産科医は少ないのである。子どもの数が少なくなってきているのだから小児科医の数も少なくてよい、子どもが生まれないのだから産科医の数も少なくてもよいと考える人もいる。はたしてそうであろうか?自分の住んでいる町に小児科医も、産科医もいない状況で安心して子どもを生み育てることができるであろうか?診療科の偏り、医師の地域による偏在は国民にとっては重大な問題である。しかし一方では日本でこのまま医者を作り続ければ医師過剰時代がやってくるので医学部入学定員削減が必要だと訴えるものもいるのである。

 なぜ小児科医は減少傾向にあるのか?

全国の小児科を持つ病院はこの10年で700以上減少した。大きな理由の一つは以前から言われ続けている小児科の不採算性である。診療報酬改訂があるたびに小児科医は優遇されていいですねという声が出る。本当なのでしょうか?一例をあげると小児救急の充実の為として夜間、休日に6歳未満の子どもを診察した際に、乳幼児加算として2000年と2004年の診療報酬改訂で計500円の上乗せが図られた。しかしこれによって夜間に子どもを診る病院は増えなかった。そこで、今回2006年度の改訂では“深夜”診察に対して1000円の加算をすることになった。1000円余計にもらえるので小児科医は深夜に子どもを診るようになるだろうというわけです。初診料、再診料、処方箋料の引き下げ、継続管理加算の廃止などは全科一律であり、全体としては小児科もマイナスなのである。小児科医としては優遇されたとの感覚は乏しいのが実態である。大幅なマイナス改訂の中では、わずかでも配慮されたことを評価すべきという人もある。しかし強く印象に残っていることがある。今回の診療報酬改訂の家庭で川崎厚生労働大臣は小児科、産科などは診療報酬を引き上げると発表した。それに対して先の日本医師会会長は、特定の科だけの診療報酬を引き上げることは好ましくないと発言した。小児医療に日が当たらないのは行政、政治などの理解が乏しいからだと思っていた小児科医は、実は敵は身内にいることを知って驚いた。小児科医減少のもう一つの理由は過酷な労働実態にある。
平成18年4月の衆議院厚生労働委員会で、小児救急医療を行っている全国27箇所の小児救急医療拠点病院を対象に3月に調査した結果が報告された。それによると宿直や夜勤に続いて翌日の勤務をしているものが約7割。一人当たり勤務時間は最高で月370時間の例もあるという。同じく4月に開催された日本小児科学会で小児科医の長時間労働、睡眠時間の短さがストレスを増幅させ、疲労蓄積度が極めて高いレベルにあるとのアンケート調査が報告された。ちなみに一般病院勤務小児科医の労働時間は週平均67.3時間、月の休日3.1日、睡眠時間6.0時間とのことであった。
関東地方の小児科医に対して現在医学生、または将来医学部進学を希望している自分の子どもを小児科医にさせたいかとの調査で、させたいという回答がゼロだったという結果が、衝撃とともに小児科関係の雑誌に掲載された。

少子化

私には少子化の進行と小児科医の減少には共通している部分があるように思える。未来を育てることに夢と希望を感ずるからこそ、親は子育てを苦しいとは思わず、小児科医も過酷な勤務を厭わなかったのだと思う。世の中は口では子どもを大切に、少子化対策に全力をなどと言っているが、しかしその理由としては労働人口が減り、将来の社会保障体制が崩壊するからという経済の倫理が優先して語られているように感ずる。どのような分野であれ努力が報われる、夢や希望がかなえられるという感覚(経済的な意味ではなく)が希薄になればそこは衰退してゆくだろう。他人の痛みを省みず、自己中心主義がまかり通る世の中で、今の子供が親になり、次の世代を育てることになるという自明のことを思い出して欲しい。何が最も本質的に必要な手立てなのか考えてみる必要があると思う。

小児科医は小児的ですぐにひがむ、すねると言われたことがある。本年1月から津軽広域での休日夜間小児救急医療体制が始まり、順調に運営されている。多くの者が年に30回の日当直を行う。小児科医の子どもを守ろうとする強い意欲で支えられている。ひがんだりすねたりしている暇はない。小児科医は子どもたちのよき理解者、代弁者として世の中に積極的に発言してゆくべきだと思う。

弘前市医師会報 第307号 巻頭言(平成18年6月掲載)